収支・経営

ジムの事業譲渡で買取してもらう方法|相場や手続きの流れを解説

無人ジムや24時間ジムの経営は、競争激化や設備更新の負担から譲渡・売却を選ぶ経営者が増えています。

本記事では、ジムを事業譲渡して買い取ってもらう方法や相場の目安、手続きの流れを分かりやすく解説します。

ジムの事業譲渡による買取とは

ジムの事業譲渡とは、経営する店舗の資産や契約、会員権などを買い手に引き継いでもらう取引を指します。

株式譲渡と異なり会社自体は残したまま事業だけを売却できる点が特徴で、無人ジムや24時間ジムの運営者からの相談が増えています。

M&Aの基礎知識とあわせて、仕組みを整理します。

事業譲渡と株式譲渡の違い

事業譲渡とは、店舗の設備や契約関係、会員権といった事業資産を個別に選んで買い手へ譲る取引方法です。

会社そのものは譲渡する側に残るため、譲渡対象に含めたくない負債や契約を切り離せる点が特徴です。

一方で株式譲渡は、会社の株式を売却することで経営権ごと会社全体を引き継ぐ方法であり、資産だけでなく簿外債務なども含めて承継される可能性があります。

ジムを個人事業や小規模法人で営んでいる経営者の場合、設備や会員契約だけを整理して引き継ぎたいケースが多く、事業譲渡を選ぶ判断が合理的になりやすい傾向があります。

比較項目 事業譲渡 株式譲渡
譲渡の対象 設備・契約・会員権などを個別に選択 会社の株式(経営権ごと全体)
会社の扱い 譲渡する側に会社が残る 会社ごと買い手へ引き継がれる
負債・簿外債務 対象から切り離せる場合がある 含めて承継される可能性がある
向いているケース 設備や会員契約だけを整理して引き継ぎたい小規模法人・個人事業 会社全体をそのまま引き継いでもらいたいケース

無人ジム・24時間ジムで需要が増える理由

無人ジムや24時間ジムで事業譲渡の相談が増えている背景には、フランチャイズ本部の撤退や経営方針転換によって個別店舗の継続が難しくなる事情があります[1]。

また、トレーニング機器やセキュリティシステムへの設備投資を回収しきれないまま収益が伸び悩み、譲渡によって投資回収を図る経営者も見られます。

さらに、空きテナントや遊休倉庫を保有する不動産オーナーが、ジムという収益性の高い用途への転用を検討し、既存店舗を買い取るケースも増加傾向にあります。

フィットネス市場全体で店舗数の増減が激しく、業界再編が進んでいることも、ジムの事業譲渡や譲渡の相談件数を押し上げる要因になっています。

買取してもらえる対象となる資産

買取の対象となる資産は多岐にわたります。

代表的なものは、ランニングマシンやウエイト機器などのトレーニング設備、内装や空調・セキュリティシステムといった店舗設備、月額課金で契約している会員との会員契約、そして店舗物件にかかる賃貸借契約です。

これらに加えて、フランチャイズのブランド使用権や予約・決済システムの利用権なども評価対象になり得ます。

買い手は各資産の状態や残存契約期間を確認したうえで、総合的に買取価格を判断する流れになります。

買取対象となる主な資産
  • ランニングマシン・ウエイト機器などのトレーニング設備
  • 内装、空調、セキュリティシステムなどの店舗設備
  • 月額課金で契約している会員との会員契約
  • 店舗物件にかかる賃貸借契約
  • フランチャイズのブランド使用権、予約・決済システムの利用権

ジムの買取相場はどれくらいか

ジムの買取相場は一律に決まるものではなく、会員数や月商、設備の残存年数、立地条件などによって大きく変動します。

ジムの事業譲渡を検討する際は、まず自店舗がどの程度の評価を受けやすいかを把握したうえで、具体的な算定要素や算定方法を押さえておくことが重要です。

買取価格を左右する主な要素

買取価格に影響する要素としては、まず会員数と月商が挙げられます。

安定した会員基盤は将来の収益予測につながるため、買い手にとって重要な経営指標になります。

加えて、トレーニング機器など設備の残存年数や保守状態、店舗の立地条件、賃貸借契約の残存期間も評価に反映されます。

POINT

これらの要素は単独ではなく組み合わせで判断されるため、数値として整理しておくことが査定を有利に進める近道です。

一般的な算定方法(年買法・資産評価等)

中小企業のM&Aでは「年買法」と呼ばれる算定方法が広く用いられています。

これは時価純資産に、営業利益の数年分(一般的に1〜5年程度)を加算して企業価値を算出する考え方です[1]。

ジムの場合、機器や内装などの資産評価に加えて、会員契約の継続率や休会率といった業態特有の指標が調整要素として加味される傾向があります。

そのため、設備の減価償却が進んでいても、会員基盤が強ければ評価が底上げされるケースもあります。

相場を把握する際の注意点

インターネット上で紹介されている相場情報は、あくまで過去の取引事例を単純化したものに過ぎず、個々のジムの状況を正確に反映しているとは限りません。

そのため、相場感を把握する段階であっても、複数のM&A仲介会社や専門家に査定を依頼し、評価の幅を確認しておくことが望ましいでしょう。

⚠ 注意

過度に高い期待を抱いたまま交渉に臨むと、条件面で折り合いがつかず譲渡自体が長期化する可能性もあるため、現実的な水準を見極める姿勢が大切です。

事業譲渡で買取してもらう手続きの流れ

ジムの経営権を譲り渡し、買い手から対価を受け取るまでには、相応の準備期間と複数の手続き段階が存在します。

一般的には相談先の選定から最終契約まで4つのステップに整理でき、それぞれで必要な作業や関係者が異なります。

次項から各工程を順に見ていきましょう。

事業譲渡で買取してもらうまでの4ステップ
  1. 相談先の選定と情報整理
  2. 企業価値評価と買い手探索
  3. 条件交渉と基本合意
  4. デューデリジェンスと最終契約

STEP1:相談先の選定と情報整理

最初の工程は、どの相談先に話を持ちかけるかを見極めることです。

ジムの事業譲渡に実績のあるM&A仲介会社や、中小企業診断士・税理士といった専門家が候補になりますが、フィットネス業界特有の会員契約や設備管理の事情を理解している相談先を選ぶと、その後のやり取りが円滑になります。

同時に、決算書や月次試算表などの財務書類、会員台帳や入退会の推移が分かる会員データ、物件の賃貸借契約書や什器のリース契約書といった書類を手元に整理しておく必要があります。

POINT

これらの資料が揃っていないと、簡易査定の段階で時間がかかり、買い手候補への説明も後手に回りやすくなるため、早めの準備が成約までの流れをスムーズにする鍵となります。

STEP2:企業価値評価と買い手探索

資料が整ったら、保有資産や会員基盤をもとに簡易査定を行い、おおよその企業価値を算出します。

査定額がある程度固まった段階で、ジムの名称や所在地が特定されないよう配慮した「ノンネームシート」を作成し、M&A仲介会社を通じて買い手候補へ打診するのが一般的な流れです[2]。

興味を示した相手とは、情報漏えいを防ぐために秘密保持契約(NDA)を締結したうえで、店舗の詳細や会員データなど踏み込んだ情報を開示し、具体的な交渉へと進んでいきます。

STEP3:条件交渉と基本合意

買い手候補が絞り込まれると、いよいよ具体的な条件交渉に入ります。

買取価格だけでなく、現在雇用しているスタッフの継続雇用の可否や待遇、会員の自動引き継ぎの可否、休会中・退会予定の会員の扱いなど、譲渡後の運営に直結する論点を一つずつ詰めていく必要があります。

トレーニング機器や内装設備についても、そのまま譲渡するのか、一部を売主側で撤去するのかを明確にしておくと、後のトラブルを防ぎやすくなります。

双方が条件に納得できた段階で基本合意書を取り交わし、その後のデューデリジェンスへと進む流れが一般的です。

STEP4:デューデリジェンスと最終契約

基本合意の後は、買い手がジムの資産や契約内容を詳細に調査する「デューデリジエンス」の工程に入ります。

賃貸借契約や会員契約に問題がないか、トレーニング機器の保守履歴や故障リスクはどうかなど、弁護士や会計士が専門的な視点から精査を行う手続きです[3]。

⚠ 注意

この段階で申告内容と実態に相違が見つかると、価格の見直しや交渉の終了につながることもあるため、売主側は誠実な情報開示を心がける必要があります。

調査を経て問題がなければ最終契約書を締結し、資産の引き渡しや対価の支払いを行うクロージングをもって手続き完了となります。

ジムの事業譲渡を成功させるポイント

ジムの事業譲渡を有利に進め、買取価格を高めるには、経営者側の事前準備が大きく影響します。

会員や契約関係の整理、設備状態の正直な開示、信頼できる専門家の選定という三つの視点を押さえることで、買い手からの評価が安定し、交渉もスムーズに運びやすくなります。

譲渡前に整理しておきたい確認項目
  • 会員台帳が最新の状態に整理されているか
  • 月額課金システムの契約内容や決済方法が明確になっているか
  • 休会・退会ルールが規約として明文化されているか
  • トレーニング機器の保守履歴・修理記録が整理されているか
  • 賃貸借契約書やリース契約書が手元に揃っているか

会員データと契約関係を明確にする

買い手が重視するのは、会員数という表面的な数字だけでなく、その中身がどれだけ正確に管理されているかという点です。

会員台帳が最新の状態に整理され、月額課金システムの契約内容や決済方法が明確であれば、譲渡後の運営引き継ぎがしやすく、評価にもプラスに働きます。

休会中・退会予定の会員の扱いや、休会・退会ルールが規約として明文化されているかどうかも確認されやすいポイントであり、あいまいなまま放置せず整備しておくことが望ましいといえます。

設備・内装の状態を正確に開示する

無人ジムや24時間ジムでは、トレーニング機器の稼働状況が収益性に直結するため、設備・内装の状態は買い手が特に注目する部分です。

マシンの保守履歴や修理記録を整理し、故障リスクがある機器については隠さず開示する姿勢が、買い手の信頼獲得につながります。

⚠ 注意

デューデリジェンスの段階で申告内容と実態に相違があると発覚すれば、価格見直しや交渉打ち切りにつながりかねないため、小さな不具合であっても正直に伝えておくことが結果的に円滑な譲渡につながります。

信頼できる仲介・専門家を選ぶ基準

ジムの譲渡を任せる仲介会社や専門家を選ぶ際は、フィットネス業界特有の事情を理解しているかどうかが重要な判断基準になります。

無人ジムの会員契約や設備特性を踏まえた実績があるか、過去の事業譲渡・M&A支援の経験が豊富かを確認するとよいでしょう。

また、価格算定や契約書作成には専門知識が必要なため、中小企業診断士や税理士、弁護士など各分野の専門家と連携できる体制が整っているかも、事前に確認しておきたいポイントです。

よくある質問

ジムの事業譲渡を検討する中で、経営状況や契約関係、費用面について疑問を持つ方は少なくありません。

ここでは、買取してもらう際によく寄せられる質問を取り上げ、赤字経営の場合の可否や手続き期間、フランチャイズ契約の扱い、仲介手数料の目安について順に解説します。

Q. 赤字のジムでも買取してもらえますか?
A. 決算が赤字であっても、ジムの買取自体が難しくなるとは限りません。買い手は現在の収益よりも、立地条件や会員基盤、設備の残存価値といった将来性を重視して判断する傾向があるためです。例えば、駅近の好立地に出店している無人ジムで、会員数が一定数維持できている場合は、運営方法の見直しやコスト構造の改善によって黒字化できる余地があると評価され、買取につながるケースもあります。また、トレーニング機器が比較的新しく追加投資が不要な状態であれば、その分評価額が上積みされることもあります。赤字だからとあきらめず、まずは自社の強みを棚卸しし、専門家に相談してみることをおすすめします。

Q. 買取にかかる期間はどれくらいですか?
A. ジムの事業譲渡にかかる期間は、専門家への相談から成約まで数カ月から1年程度が一般的とされています[4]。財務書類や会員データなどの情報整理が事前に進んでいる場合は手続きが短縮されやすく、逆に買い手探索の段階で条件が合わなければ交渉が長引くこともあります。無人ジムのように設備や契約関係が複雑なケースでは、デューデリジエンスに時間を要することも少なくないため、余裕をもったスケジュールで準備を進めることが望ましいでしょう。

Q. フランチャイズ契約があっても譲渡できますか?
A. フランチャイズ契約を結んでいる無人ジムや24時間ジムであっても、事業譲渡は可能なケースが多くあります。ただし、契約書には譲渡に関する条件が定められていることが一般的で、フランチャイズ本部の事前承諾が必要になる点に注意が必要です[5]。契約内容によっては譲渡先の選定基準やブランド使用条件、違約金の有無などが定められている場合もあるため、譲渡を検討し始めた段階で早めに本部へ相談し、契約条件を確認しておくことが円滑な手続きにつながります。

Q. 仲介手数料の相場はどのくらいですか?
A. ジムの事業譲渡を仲介会社に依頼する場合、手数料体系は会社ごとに異なりますが、一般的には着手金・中間金・成功報酬の組み合わせで構成されます[6]。中小企業のM&Aでは着手金や中間金が無料の完全成功報酬型も増えており、成功報酬は譲渡価格に応じたレーマン方式で算定されるケースが多く見られます。契約前には報酬の発生タイミングや最低手数料の有無、譲渡が不成立となった場合の費用負担について必ず確認しておくことが重要です。

まとめ

ジムの事業譲渡による買取は、会員データや設備状況を整理し、適切な相場感を持って専門家に相談することで実現可能性が高まります。

POINT

株式譲渡との違いを理解し、デューデリジェンスまでの流れを把握したうえで、早めにフランチャイズ本部や仲介会社へ相談することが成功への近道です。

まずは現状の資産や契約関係を棚卸しすることから始めてみてください。